83歳でその生涯を終えた映画俳優の高倉健さん。

健さんが書いた『あなたに褒められたくて』というエッセイを読みました。

その中に、『ウサギの御守り』というエッセイがありました。

人が人を傷つけるとき、

自分が一番大事に想う人を、いや、むしろ

とっても大切な人をこそ、

深く傷つけてきたような気がする。

もうこんな人には二度と会えないぞ

と思うような人に限って、深く傷つけるんですねぇ。

傷つけたことで自分も傷ついてしまう。

そしていつのころからか、本当にいい人、のめり込んでいきそうな人、

本当に大事だと思う人からは、できるだけ遠ざかって

キラキラしている思いだけを

ずっと持っていたいと考えるようになってますね。

自らを映画俳優だといいストイックに映画の世界に生きた健さん。

だからこそ、

『恋』や『普通に生きる』ことが難しかったのかなぁなんて思いを馳せました。

そんな健さんが、山田洋次監督に『愛するということはどういうことでしょう?』と問うたら

『愛するということは、その人と自分の人生をいとおしく想い、大切にしていくことだと思います』

と答えられたといいます。

なんだかもう、ストンと納得できるのはお二人が人の心の機微を描くことに

誰よりも長けているからでしょうか。

そして、このエッセイ集のタイトル『あなたに褒められたくて』の『あなたに』は

健さんのお母さんのことを指しています。

最愛の母が亡くなった時のことを書いてあるエッセイは、

なんだか自分が父を亡くした時と重なり、仕事中なのに泣きそうになりました。

そのエッセイの〆の一文。

『あなたに代わって、褒めてくれる人を誰かみつけなきゃね。』

そうなのだ。

いつだって、子供は親に褒めてもらいたいんだよな。

私も父を亡くした直後のブログに同じことを書いた覚えがある。

健さんと同じだなんておこがましいけど…。

プライベートは謎に包まれていた健さんだけど、自分なりの哲学を持ち

『男』として生きた素顔が見えてなんだか嬉しい一冊でした。

生前、取材で一度だけお会いしたことがあって。

その時、健さんは駆け出しの作家の私にも丁寧にコーヒーを勧めてくれて。

なんだかとてもかわいいクマが描かれたカプチーノを一緒に飲んだ思い出があります。

もう会えないということの、なんたる意味の大きさたるや。

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