過去形になっていますが、今もなおテレビが好きです。

西加奈子さんの新刊『夜が明ける』を読みました。

恐ろしいほど没入して、一気読みしちゃいました。

   

あらすじは…

   

15歳の時、高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。 普通の家庭で育った「俺」と、母親にネグレクトされていた吃音のアキは、共有できることなんて何一つないのに、互いにかけがえのない存在になっていった。大学卒業後、「俺」はテレビ制作会社に就職し、アキは劇団に所属する。

しかし、焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、少しずつ、俺たちの心と身体は壊れていった……。

思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描きながら、 人間の哀しさや弱さ、そして生きていくことの奇跡を描く、感動作!

(*公式HPより)

    

というもの。

   

主人公がテレビ制作会社に就職したこともあり

店長からもすごく勧められて読んだのだけど…

正直言って、この制作会社での仕事の描写が

リアルすぎて具合が悪くなるかと思った…。

2000年台に制作会社でADを経験した人は

ちょっと色々フラッシュバックするレベルでリアル。

「西さん…一緒にADやってましたっけ?」

というほど、圧倒的な筆力でその生活を描いている。

寝れない、帰れない、仕事が終わらないという

労働環境はもちろんのこと、精神状態の描写も

まさに当時の私がそこにいた。

私自身、ADは2年弱しかやってないけど

その後すぐに放送作家になって、

ありがたいことに仕事は順調だったけど

20代は常に誰かと戦っていた。

いつも『負けたくない』って思っていた。

なにと?だれと?戦っていたのか、

負けたくないと思っていたのかというと、

それはもう、自分以外の全世界と(笑)。

そして、自分と。

フリーだったし、女だったし、

自分を守るのは自分しかいないと思っていた。

常に180%の仕事をしないと

「負け」だと思っていた。

だから、体を壊しても倒れても原稿を書いたし

常に新しい何かをアウトプットしようと

もがいていた。

ぶっちゃけ30後半までそう思っていたし、

そこまでして頑張れたのは、もう単純に、

『テレビが好きだったから』でしかない。

  

ようやくそういう思考の呪縛から解かれたのは

作品の中に出てきたこの一文の気持ちに近い。

   

『もう十分勝ったし、十分負けたんです。』

   

そう、私はもう十分に勝ったし、十分に負けた。

だから、勝ち負けじゃないところで生きていきたい。

そして、そもそも仕事は勝ち負けじゃない。

楽しいことも苦しいことも嬉しいことも辛いことも

たくさん経験したけれど、それらは

勝った負けたという軸で語るのではなく、

純粋に一つずつに真摯に向き合うだけ。

で、誰かに対する勝ち負けではなく

自分に「正直」になれたら

仕事がもっと楽しくなったし

「やってみたいこと」にむかって

素直に行動したら書店員にもなれた(笑)。

もちろんAD時代は辛いことだけじゃなく

楽しいこともたくさんあって。

だからこそ、タモリ倶楽部の収録に行って

笑顔で先輩たちと再会できるわけなんだけど。

   

ちなみに、この作品を読んだ是枝裕和監督の

コメントがこちら。

   

   

さすがだよね…

いやもう、過不足なく激しく同意。

ただ…私の感想としては、

この作品を読んだ率直な感想は「祈り」でした。

あの頃、一緒に地獄を歩んだ仲間たちが

どうか今は暖かい部屋で、栄養のある食事をし、

心穏やかに過ごせていますように。

柔らかな布団で安心して眠れていますように。

そんな、祈りです。

   

人生に対する考え方は人それぞれだけど、

人生のどこかで、記憶を無くすレベルで

何かに夢中になって没頭した経験がある人とは、

私は、無条件で仲良くなれる。

地獄みたいな日々だけど、そんな中にも光はあって。

その光の存在を知っている人とは、

たぶん、言葉じゃないなにかで共感できるんだと思う。

   

まぁとりあえず、2000年代に

「制作会社で」ADをやっていた人は

西さんの『夜が明ける』を読んでください。

もちろんそうじゃない人に、おすすめです。

とにかく、最後の一文が秀逸です。

   

non。